朝4時30分起床。
まだ、ホテルの窓の外は薄暗く、街は眠っています。
昨夜買っておいたサンドウィッチと日本から持参してきた味噌汁をお腹に入れ、出発です。
もう一度窓の外を見ると少し明るくなってきています。
ホテルの前にはタクシーがいなかったので、やはりここでもウーバーを利用します。
まだ、5時過ぎにもかかわらず、車は3,4分でやってきました。
以前は毎回朝一番の地下鉄で向かっていましたが、早朝のポートベローで強盗事件が多発していることもあり、身の安全を考え、車で向かうことも多くなりました。
土曜の朝のため、道は空いており、車はスムーズにマーケットへと向かいます。
ポートベローはもう慣れ久しんでもので、どのディーラーが何時に来るか決まっているので、まずはいつも朝5時過ぎには開いている建物へ向かいます。
ディーラーたちのいつもと変わらぬ挨拶を交わし、次に開く6時のメインビルディングに向かいます。
ここはジュエラーが集まるビルで、10時頃には多くの人でいっぱいになります。
9月ということもあり、まだ、ディーラーたちがバカンスから戻ってきていないのか、
いつもよりも出店者が少ないです。
6時半に開く次のビルまでの間の30分、他のビルも見ながら、出店のディーラーたちが集まってくるのを待ちます。
「んー、物が動いていない。」
バカンス前に見た品とそれほど変わっていない、いや、変わってはいるが、いい物が集まっていないなぁ。
そんな気持ちを抱きながら、次第に増えていくスタンドの商品を見て回ります。
買えないもどかしさの中、6時半、7時と開いていくビルを回っていきます。
外に出て、空をみると、ちょうど朝焼けで空がオレンジ色に染まり、美しいです。
この美しい景色と朝の清々しい空気が気持ちを切り替えさせてくれます。
7時の開店前には多くのディーラーがオープンを待って並びます。
ここで、馴染みのディーラーたちと最近の動向などを、冗談を交えて、話します。
7時。開店と同時に狭い通路を通って奥の部屋へと皆流れ込んでいきます。
この7時に開くビルは先の二つのジュエリ
ー専門のビルに比べれば、リーズナブルな商品も多いです。
掘り出し物を探しに、先ほど買えなかった分、念入りに見ていきます。
ここでこの時期にもかかわらず、多くの日本人ディーラーとも顔を合わせ、挨拶を交わします。
皆、開場直後は商品の物色に忙しいので、話している時間もありません。
ここで、珍しい品々をいくつか購入することができました。
そして、再び、ジュエリーのメインビルディングに戻ります。
その頃にはすでに、ほとんどの出店ディーラーは店を開きはじめ、世界中から集まったバイヤーたちで賑わっています。
バカンスの影響か、空いたスタンドに今回はいつもとは違うディーラーが店を出しています。
バーミンガムやリバプール、サウサンプトン等各地から毎週や隔週来るディーラーたちと再会し、新入荷の品を見せてもらいます。
ジュエリー仕入れもひと段落したので、東洋骨董を扱う業者が集まるビルに行きましょう。
ここには5月に閉じたグレイスミューから多くのディーラーたちが移ってきています。
旧友たちとの再会です。
その中には初めて会ったのが21年前のペシャワールやクエッタというアフガニスタン人などもいます。
パキスタンの治安が悪化し、外国人ディーラーが現地をほとんど訪れなくなり、彼らは、ここロンドンやドイツ、東南アジア、中国、アメリカなどに移住してきたのです。
その深い皺の奥には、あの西アジアの砂塵がまだ残っていそうです。
そして、そこに異国の地でも逞しく生きていく強さを感じるのは僕だけではないでしょう。
また、ミューから移った昔からの友人の新しい店が見つかり、椅子を勧められ、一休みすることにしました。
大凡の仕入れも終えていたので、ゆっくり変わった物を選ぶ時間帯です。
「おめでとう!新しいお店を開店出来て」
「息子と娘は元気か?」と私。
「陽青の家族は皆、元気か?」と彼。
話を聞くと、どうやらスペインに住むお兄さんが亡くなり、死後何日かして見つかったそうです。
子供や元嫁さんとも連絡が途絶えたそうで、すぐに亡くなったのが発見されなかったとのことでした。
それで彼が息子と共にスペインまで行き、いろいろと処理をしてきたそうでした。
法律事務所で働く息子が助けてくれて助かったとのことでした。
10代後半の一時期不良になり、彼を悩ませていた息子さんが今では立派になり、成長し変わったなぁと感心すると共に、
長年慣れ久しんだ店を閉めることや、お兄さんの死と、今年は大変なことが重なった彼。
笑みをたたえた眼鏡の奥には深い疲れが溜まっているのを感じました。
「どうだい?新しい店は?」
と私。
「以前は、週5日お店に来て、仲間やお客さんなど多くの人と会話し、楽しい日々をおくっていた。それが今では週に一度ここに来るだけで、後は家で毎日パソコンと睨めっこばかり、一人でいるのは辛いよ。」<
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と彼。
「それに、俺も、もう67歳だよ」
「新しい常設の店をやる元気もないよ。」
という答えが返ってきました。
ロンドン、いつも素敵なアンティークとの出会いが待ってくれている街。
そのアンティークたちを紹介してくれるいつものディーラーたち。
その長年続いてきた環境も人も毎回少しずつだけれども、変化していっている。
そういえば、いつの間にかに居なくなっていたディーラーたち。
今はどうしているのだろうか。
記念に仏像やハヌマーン像を購入させてもらい、次また会うことを約束しました。
ですが、
「俺が元気なうちに来るんだぞ」と、
最後の切ない一言が胸に沁みました。
さぁ、ホテルに帰ったら、軽いお昼でも食べましょう。
朝早くから歩き続けたので、お腹も空きました。
午後2時からは「レ・ミゼラブル」の公演を予約しています。
ホテルに戻って、荷物を整理し、正装に着替え劇場に向かいましょう!
ジャン・バルジャンに会いに!