こうした光景を目にするのはいつ以来だろう。当たり前に思えていたこの光景。
それが突然、世界が止まってしまたように、世界中の空港から人々が消えてしまった。
映画の中で見たような光景。バイオハザードなど見ていて、こんな事は映画の世界の話だと誰もが思い込んでいたと思う。けれど、本当に人々が街から姿を消してしまった。
そして、やっと、やっと、空港にも人が戻ってきた。前回、5月に成田空港を旅立った時や8月に姉家族をやはり成田空港に送りに来た際にはほとんど人がいなかった。それが、今回、せき止められた流れが、ダムから一挙に噴き出したように大勢の人が空港に押し寄せてきた。
すでに、イギリスやフランスでは何の制限もなく、人々の国境を越えた移動が始まっている。これまでのようにビザを必要としない国からの人は誰もが自由に入国できるようにいち早く制限が緩和されている。
そして、日本も参議院選挙も終わり、第7波の中とはいえ、政治的なタイミングを待って、9月7日から入国の制限が大幅に緩和されることになった。
最近、私の友人や知人の多くが搭乗前のPCR検査で陽性となり、アメリカやイギリス等で1週間、長いと2週間以上も足止めになっていた。
5月から6月にかけて仕入れに行った際にはそれほど気にしていなかったが、そうした事を耳にする度に、やはり、帰国できなくなることのリスクを強く意識するようになっていた。
きっと、それは多くの日本人が同様に感じていたことだろう。
今回の出発となった9月2日。出国検査場の前には久しぶりに長蛇の列ができていた。
下期が始まったばかりのこの日、恐らく、海外赴任が決まったであろう、たくさんの子供連れの家族の姿がそこにはあった。
また、明らかに海外出張であろうビジネスマンの姿も多く、その一方、海外から来たであろう観光客やこれから海外に観光に出かけるように見えるあの独特の楽しそうな日本人の姿はない。
航空会社のスタッフに尋ねると、どうやらこの日のフライトはファースト、ビジネスもほぼ満席。エコノミーも8割以上が埋まっているとのこと。やはりビジネス需要は観光よりも先に戻ってきているのが解る。
フライト時刻は9時5分。これまでのロンドン行きのフライトが11時40分発であったので、2時間35分も早い出発。
前日も夜中まで仕事に追われながらも、朝4時20分に起きた時には外はまだ真っ暗。まだ寒くないからいいが、「今後もこの時間は辛い。」そう身体が愚痴をもらしてきている。
朝が早いためか、一部の免税店くらいしか店は開いていない。
その免税店にはお土産を買う人々でコロナ前よりも遥かに長い列ができている。私も列に並び、お世話になっているディーラーに渡す煙草を買い求めた。
朝が早かったのもあり、お味噌汁だけを胃に流し込んだ来ただけのため、空腹でお腹の虫が泣き出し始めた。
久々にラウンジに朝食でも食べに行こう。
久々の羽田空港の国際線ラウンジ。受付を済ませ、通路を通り、中に入ると。
そこには人、人、人、人、人、人の群れ。
どこにも座る場所が空いていないのではと思えるほどの人が溢れえている。ゆったりと座れるソファー席はどこも埋まり、僅かにいくつかのカウンター席が空いているだけである。まさに、日本人ビジネスマンとその家族による民族大移動である。
コロナ前の全ての経験からしても、同じ羽田空港の国際線ラウンジでここまで混み合っている光景を目にしたことはなかった気がする。
やはりずっと止められていた人々の流れが押し出されるように湧いてきていることを、ここでも感じる。
出張が多い人は航空会社を頻繁に利用するため、自然とラウンジのへのアクセスができるカードを保持している人が多く、そうした人々で満員といった状態だ。
私はとろろ蕎麦と小さなおむすびをいただき、早々と退散することにした。
きっと、これまでほとんど乗客を乗せることなく、飛び続けていたせいか、久々のたくさんの乗客やその荷物を搭載するのに、戸惑っているのだろう。予想通り出発は遅れ、搭乗口前には出発待ちきれなくなった多くの人々の長蛇の列ができている。
今回は15時間のフライト。飛行機の中では電話やインターネットが通じなくなるため、出発前の電波が通じるうちにできるだけやるべきことは片付けておこう。
沖縄付近にある台風の影響か、羽田空港の周辺にも雨雲が伸びてきており、窓は雨粒で埋められている。
前回はフィンエアーで成田空港から飛び立ったため、今回が本当に久々の羽田空港からの乗り慣れた全日空での空の旅だ。
ベビーカーを押す親子共に最後の方に飛行機に搭乗。
飛行機の席に腰かけてからもなかなか、飛行機は動き出す気配がない。久々の光景に何だか、気持ちは安らぎ、雨とはいえ窓の外の景色をぼーっと眺めてしまう。
何だか、やらなければならないことはたくさんあるのだけれども、飛行機の中では結局何もできない。だから、ただ、今はこの空間にとどまるしかない。そう思いながら。家族や仕事、将来のことを考えながら、その内、ただ、目の前に広がる雲をぼーっと見つめる。
20分くらい過ぎた頃、飛行機は動き出し、やがて勢いよく滑走路を駆け抜ける。機体が斜めに傾くと共に浮かび上がり、ぐーーんっと一気に上昇していく。あっという間に雲の中に包まれ、しばらくすると、雲の上に出た。翼の下に厚い雲が何層にも重なっている景色が広がる。
雑誌を借りようかと機内スタッフに声をかけると、コロナのため、雑誌や新聞などは一切貸し出しをしていないとのこと。前回はフィンエアーであったため、気付かなったが、こんな所にもコロナによる影響が出ていた。当たり前だと思っていたことがこの2年半でいろいろと変わってしまった。
家から新聞を持参しておいてまぁひとまず良かった。
朝が早かったからか、食事の時にワインをいただくと、いつの間にかに深い眠りに入っていた。見始めたばかりの映画は終わっており、時間が過ぎていることに気付く。何時間たったのだろう。残りのフライト時間をみると、3時間ほど寝ていたことが解った。
それでも、まだまだ、長いフライトだ。
窓の外へと目を移すと、白い世界が広がる。雲かと思ったがよく見ると、雲海の向こうには、ところどころに湖らしき巨大な水溜まりがある。そして白い氷の塊がうねっている。氷河の塊が海へと向かっている光景だ。どうやらアイスランドの氷河が温暖化により溶け、海へと流れだしているようだ。ニュースでは耳にするが、自分の目でその光景をみるのはやはり違う。地球が変わり始めていることが強く意識させられる。
飛行機は飛び続け、また、眼下には海だけが続いている。
その後、ダウントンアービーの新作映画を観て、ジュエリーの使い方や装飾、調度品、音楽、ダンスなどその時代の雰囲気を楽しむ。やはり、私はこの時代が好きなんだなぁ。自分が扱うアンティークたちと映画の時代を重ねていた。
残りのフライト時間も少なくなり、窓を開けると、そこにはもうイギリスの陸地が広がっていた。
飛行機は次第に高度を下げ、見慣れたロンドンどの町の景色が近づいてくる。
スムーズな着陸と共にヒースロー空港に到着。
久々のヒースロー空港ターミナル2!
前回5月の時とは異なり、長い通路やエスカレターには私達東京からの乗客以外には人が見当たらない。
前回のように何重にも列が重なっているあの混雑した情景を思い浮かべていたが通路進み曲がると、
目の前に開けたパスポートコントロールのゲイトには、ほとんど人がいない。ほっと一安心。
スムーズに通過し、新設された地下鉄エリザベスラインに乗車し、ホテルへと向かいました。
さぁ、明日はポートベロー。いきなり、早朝から骨董市です!