すでに秋の涼しい空気がパリには満ちています。
ホテルから外に出ると、雲一つない青空が広がっていました。
金曜日のクルニアンクール。
本来は土曜日、日曜日、月曜日が開催のクルニアンクールですが、金曜日でも半分くらいのお店は開いています。
ロンドンのポートベローも土曜日が開催日ですが、平日も結構店が開いているのと同じような感じでしょうか。
それでもいつもお世話になっているお店には事前に日本から電話をし、アポイントを取っておきました。
何しろまだ九月の第一週、バカンスで不在にしている業者も多いです。
待ち合わせ時間まで余裕があったので、その前に何か珍しいものがないかとマーケットを回ります。
まだ皆店を開き始めたところですが、こまめに回っていきます。
いつも思うのですが、パリはロンドンよりもジュエリーに関してはしっかりとした値段が付いている。
全体として相場が高く感じられます。
その上、完品が少ない、どこか壊れているものや直しがしてあるものが多い。
また、時代が全体として若い。
それでもイギリスにはないアーティスティックなものやデザイン性に富んだものが隠れています。
そんな物たちとの出会いを求めて歩き続けます。
それは工芸品にも言えることで、イギリスをはじめとするヨーロッパ各国を探してもなかなか出会わないような、美しいアールヌーヴォの作品などがまだまだ居てくれます。
この日も棚の下の方に隠れていたガレ第一期つまりガレの生存中に作られたデキャンタを発見。
模様となている花の部分はハンドカットされ、その上に金彩が施されています。
120ほど前の作品がこうして割れることなくきれいな状態で残っていてくれることに感謝です。
その後もルネ・ラリックのオパールセントの幻想的な色合いの作品にも遭遇。
アールヌーヴォやアールデコの作品で持ってきたスーツケースは一杯になってしまいました。
約束していた工芸ガラスの店主にも
「今回はこのスーツケースに入る分だけ買うから。」
と話します。
「さっきガレを買ってしまったから、いつもよりも小さめの物にしないとダメなんだよ。」
「ダコ―・・・(わかった・・・・・)」と店主。
二人で、値段と大きさの合うものを探します。
そこで大きい物、中くらいの物、小振りの物と選び値段交渉もまとまったところで、
パッキングをし、スーツケースに詰め込みます。
あんまり厳重に包みすぎると入らないし、かといって薄すぎると折角の品が壊れてしまいます。
日本から持参してきた梱包材を使い、自分で梱包していきます。
これまで世界中で人に任していくつものの貴重な骨董品が壊れてきてしまっているため、なるべく自分で梱包するように心がけています。
アフリカでは木彫りやマスクが割れてしまい、
インドでは大理石の象の足が四本とも折れ、
ネパールでは十一面観音菩薩の頭部が折れ、
インドネシアではトンボ玉が粉々になり
ドイツではマイセンの指が壊れ、
フランスではラリックに亀裂が入り、
数々の悲しい思いをしてきたので、自分でぴっしりと隙間なく包みます。
スーツケースに入れてみたのですが、なかなか入りません。
店主が「パズルみたいだね。」
と呟く横で、
入れ方を工夫し、何とか収まりました。
持ってきた着替えや洗面道具はリュックサックに詰め込み何とかロンドンまで持って帰れそうです。
次回の訪問する日時の約束を取り付け、次のアポイントに向かいます。
次の店では、まずはオークションで頼んで仕入れてもいてもらったものを見せてもらいます。
信頼関係のある彼女に落としておいてもらい、その後回収してもらっておきます。
手数料を上乗せし、私の下に来ます。
こうして各地にいる同業の仲間に頼んでおけることは有難いことです。
次に、店頭に並んでいるものから目ぼしい物を出してもらいます。
なかなか値段が合わず購入したいと思うものがなく困った。
頼んでおいたものだけを回収するわけにもいきません。
多分買い付けて来たばかりの物がいつも通り引き出しの中に閉まってあると思い、
机の方を指さしながら、尋ねてみます。
やはりまだ買ったばかりの品がトーレーの上に山盛りになっていました。
中からキラリと光る物を探します。
けっこう、後からハンダ付けされて合体した物や、修理が目立つものもあります。
その中から、なんとか数点の美しきジュエリーたちを見つけ出します。
そして値段交渉。
いつも初めから他の店よりも安いにもかからず、最期にまとめて安くしてくれます。
この気持さにまた、次回も会いに来ようという気持ちにさせてくれます。
そうして最後に世間話をしていて、時計をみると、もう2時半です。
4時13分発の電車を予約してあるので、そろそろ北駅に向かわなければなりません。
翌日は早朝からポートベロー急いで帰りましょう!
北駅に着いてエスカレーターに乗って二階に上ると、ユーロスター用の入り口になります。
自動化されたパスポートコントロールを抜け、荷物検査になります。
最近、昔に比べパリの荷物検査はうるさくなってきました。
何だか、工芸品を持っていると毎回カバンを開けさせられています。
最近は私も学習し、工芸品を梱包する前に写真に撮っておくことにしています。
その画像を係員に見せると、わざわざ包んである荷を開けないで済むことも多いからです。
しかし、今日の担当はこれも私たちの仕事だからと写真を見せたにかからず、開いてとナイフで梱包材を切って開けようとします。
おっと!
それはまずい、後から梱包する資材がないのだから。
自分でやるからと、開いて見せると、
「美しい作品だね」
もう一人のスタッフが話しかけてきます。
自分で改めて梱包していると、
先ほどの女性スタッフが申し訳なさそうにガムテープを手に戻ってきました。
それで再度梱包した物をしっかりと留めてくれました。
荷物を梱包しスーツケースにまたパズルのように詰め込んでいる間、スタッフの方たちとフランスや日本のアンティーク業界のことを話していました。
何とか再びスーツケースに収まると、以前にも会ったことのあるプロレス好きで日本好きのマッチョな係員がウィンクし、
「こんにちは、さようなら」
と日本語で語りかけてくれました。
よくユーロスターを利用し北駅には来ますが、皆なんだかんだ親切です。
ただ、ブレグジットになった場合、フランスで購入した品をイギリスに持ち込む際には今までのように無税で通過できるのが、
いったいどうなってしまうのかと不安が過ります。
次回は11月に訪れる予定です。
EU離脱が延長されていなかったのならば、離脱直後の混乱期になります。
ヨーロッパ中を飛び回り移動するディーラーたちには面倒なことです。
この混乱が早く収まることを願います。
ロンドンの到着ゲードの前では、いつも優しい演奏がパリからの旅人を迎えてくれます。